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2009年7月24日、金曜日。フジロックフェスティバル '09の初日、朝から降り続いた雨は、夜になる頃には観客の体力を確実に奪っていた。そこに登場した、英国の雄オアシス。大雨の中フィールドを埋め尽くした観客が見たのは、この約一か月後に突然ノエルが脱退宣言し解散状態になだれこむことになる、オアシスのまさかの日本でのラスト・ライヴだったーー。
この『oasis FUJI ROCK FESTIVAL’09』は、オアシスのファンのみならず、オアシスの歴史においても特別な夜だった2009年7月24日のライヴの模様を、あの場の空気感までも感じさせる映像で映し出している。そもそも、全編を通してこのライヴを収録した映像が存在していたことすら長年知られていなかった。いわば古きファンにとっては感涙の、若きファンにとっては夢にも思わなかったであろう、「あの夜のオアシス」がしっかりと封じ込められている作品である。

カメラは登場の瞬間から、丁寧にバンドを追い続ける。たとえば3曲目"ライラ"で、故意かどうかはわからぬが間違った歌詞を歌いつづけるリアム・ギャラガー(Vo)に対し、コーラスを入れる兄のノエル・ギャラガー(G)が「勘弁してくれよ」と言わんばかりににらみつける様子さえも、はっきりと映し出す。傍若無人なロックスターだと思われがちなリアム・ギャラガーが、実は細かくマイク音響の指示なども出しながら全力で真摯に歌い続けている姿。この夜の"ハーフ・ザ・ワールド・アウェイ"や"ドント・ルック・バック・イン・アンガー"などで見せたノエル・ギャラガーの優しい表情。そういった微細な部分まで、しっかりとこの作品のカメラは捉えている。大雨の中でのライヴだったため、あの場を共に過ごすのに必死で細かい部分まで覚えていなかった人もきっといるだろうが、失われた記憶は間違いなくこの映像で補完されるに違いない。

それにしてもオアシスは、本当に絵になるバンドだった。体を少し斜めに傾け、ガニ股でひざをわずかに曲げ、両手を後ろで組み、そしてマイクに上唇をつけて歌うリアム・ギャラガー。彼を左側から撮影すると、その先には伏し目がちに、職人然としながらギターを紡ぎ続けるノエル・ギャラガーも同時に映る。この2人が視界に同時に収まった時の、胸の中に湧きおこる不思議な高揚感をぜひ体感して欲しい。これぞ、オアシスだ。
Photo:©Masanori Naruse
Text:妹沢奈美
これが結果的に日本最後のライヴになったことを抜きにしても、フジロックのグリーンステージ初日のヘッドライナーとして登場したこの夜のオアシスは、いつもの彼らが、いつもよりファンと真正面から向き合う姿を見せた、本当に記憶に残るライヴだった。それはおそらく、大雨が降り続く中ですっかり消耗した体力をおぎなうように、気力を振り絞った大歓声でオアシスを迎え、大合唱を続けた、この日の素晴らしきオーディエンスのたまものだろう。オールタイム・ベストともいえる見事な選曲ともあいまって、非常に心を打つライヴだった。

イギリスのラッドのこだわりを見せつけるかのように、この日リアムはモッズ・コートでノエルは革ジャンと、真夏の野外フェスとは思えぬいでたちで登場。のっけから"ロックンロール・スター"ではじまり、連打のように名曲群が繰り出されていく。"ザ・ショック・オブ・ザ・ライトニング"のクリス・シャーロックのドラムはまさしく雷だったし、"モーニング・グローリー"のあのイントロは大雨の苗場を一挙に灼熱の朝日で照らすかのよう。熱い曲を、リアムがいっそう熱く歌い上げる。

雨の中で聴くノエルの"ザ・マスタープラン"のドラマチックさに続いて、リアムの"ソングバード"が来たのも良かった。この兄弟の根底に共通する繊細さと優しさが、この2曲でまっさらに苗場に放たれる。また、"スライド・アウェイ"も圧巻だった。2001年、当時はライヴでのレア曲だったこの曲が同じフジロックのステージで感動的にプレイされたことを思い出す。瞬時に、フジロックをめぐるオアシスの記憶が繋がっていく。

お馴染みの"ドント・ルック・バック・イン・アンガー"も、この夜はなんだか少し、優しかった。"シャンペン・スーパーノヴァ"のきらめき、決して記名性の高いイントロではないのに、イントロの段階で会場の誰もが歌い始めた"リヴ・フォーエヴァー"のまごうことなき横綱感。

そして圧巻は、「この曲は、日本でたぶんプレイしたことないと思う」というノエルの言葉に導かれて演奏された"ハーフ・ザ・ワールド・アウェイ"だろう。アコギを片手に、ノエルはこの初期の名曲を、胸が熱くなるほど優しいトーンで演奏した。大雨の中で、それでもオアシスを待ち続けたオーディエンスへの、嬉しいプレゼントかもしれないなとあの時思った。そういう意味では、この日のライヴの全てが日本のファンへのプレゼントのようだった。

本人たちも、まさかこの時は自分たちが解散するとは夢にも思わなかっただろう。だからこそ、いつものオアシスが、雨の中でいつもより少し優しく響いていた。アンコールがないのも、そう、いつものオアシスだ。
Photo:©Masanori Naruse
Text:妹沢奈美
「このフェスはよく雨が降るんだよな。いつもいつも、な」ーー"ザ・マスタープラン"の演奏に入る直前に、ノエル・ギャラガーはそう得意満面で話している。とはいえ実は、オアシスにとってこの2009年のフジロックはまだ2度めの出演。そして初めて出演した2001年には、オアシスのステージの時には雨は降っていなかったのだ! ……フジロックでよく雨が降る話をおそらく誰かから聞いたのだろうが、あの夜、これはノエル特有の、つっこみ待ちのボケだと思ったのは私だけではあるまい。「いや、まだ2度目だし」と言われるのを、待ち構えた呼び水発言だと。

ただ、オアシスとしてはわずか2回の出演だったことがむしろ不思議に思えるほどに、「オアシスといえばフジロック」というイメージがある。それはひとえに、2回のフジロック出演がどちらも非常に記憶に残るライヴになったからだ。 97年にスタートし、99年から現在の新潟県・苗場スキー場で開催されているフジロックで、2001年のオアシスはまさに待望かつ圧巻の登場だった。初日である2723日のグリーン・ステージは、トラヴィス、マニック・ストリート・プリーチャーズ、そしてオアシスというUK好きにはたまらない鉄壁の流れ。これがオアシスの日本のフェス初出演だったわけだが、大自然の中でオアシスの強靭なエネルギーがリアムの声を噴射口にするかのように放たれ、そこに皆が合唱するカタルシスといったら! スタジアムやホールでのオアシス体験と、全く違うカタルシスだ。

2009年のオアシスのライヴは、大雨の中での名曲連打もさることながら、結果的に、まさかの日本最後の彼らのライヴになった。伝説に立ち会った者として、今もあの日の思い出を胸に秘めている人は多かろう。

解散後、まず2012年にはリアムのビーディ・アイがフジロックのステージに立った。そして2015年、ノエルがノエル・ギャラガーズ・ハイ・フライング・バーズとして登場し日、彼が見せた今も忘れられない光景がある。

ライヴ中盤、ノエルはおもむろにステージから「ありがとう、と前もって言っておく」と観客に優しく話しかけた。「次の曲は、日本のファンがスペシャルなものにしてくれた。や、いい曲ではある。ただ、オールライトだったものを、グッドなものにしてくれたのは日本のファンだ。ありがとう」。そして始まったのは、"ホワットエヴァー"だった。オアシス時代には、この曲がフジロックで演奏されることはなかった。にもかかわらず、曲が進むうちにあの頃のオアシスと、今のフジロックの景色が繋がっていく。ノエルはおそらく、オアシス時代に同じステージから見た景色を、この時思い出していただろう。そして、日本のファンがいかにオアシスを愛していたかを、一人で立つ苗場の地で改めて体感したに違いない。
Photo:©Masanori Naruse
Text:妹沢奈美
リリースした7枚のスタジオ・アルバムは、全て全英チャート初登場1位。1994年にリリースしたデビュー作『オアシス(Definitely Maybe)』は、英国におけるデビュー作最速売り上げ記録を更新。1995年の2nd『モーニング・グローリー』は全世界で2,200万枚以上の売り上げとなる爆発的ヒットとなり、1996年にネブワース・パークで行われた野外ライヴでは2日間でのべ25万人以上を集客。ーーデビュー後わずか数年の記録をこうやって羅列するだけでも、いかにオアシスがケタ外れの人気を得ていたかがわかるだろう。

2009年にノエルとリアムのギャラガー兄弟のケンカで彼らの歴史は幕を閉じたが、それぞれが別の道を歩んでもなお、折節に再結成待望論が出たり、人によっては再結成をしないからこそオアシスだとも語り、つまりオアシスは今も愛され続けているのである。

英マンチェスター近郊のバーネイジ出身のギャラガー兄弟を中心に結成したオアシスが、デビューからゆうに20年を超えても人々を惹きつけてやまない理由は、とりもなおさずその音楽性にある。解散後にオアシスを知った若きファンたちが、"ホワットエヴァー"や"ドント・ルック・バック・イン・アンガー"、"シャンペン・スーパーノヴァ"など、彼らが生まれる前の曲に魅了され、ノエルやビーディ・アイのライヴでともに歌う光景は美しい。ビートルズにも比べられる旋律の美しさ、たまらないトーンで紡がれるノエル・ギャラガーのギターライン、ノエルのロマンティックな性格を反映した曲調を、マイクに挑みかかるかのようにニコリともせず大声で歌いあげ一気に虚無化させる、リアム・ギャラガーの唯一無二の声。絶妙なバランスが、オアシスを特別なものにしていた。

絶え間ない兄弟ゲンカや、ニュースを賑わす暴言や放言なども、ギャラガー兄弟がウソも隠し事も裏表もない性格だからこそ。そして、それがオアシスのロックンロールでもあり、だからファンに信頼され愛された。

リアムのバンド、ビーディ・アイが解散した直後にノエルに取材をする機会があった。「かなりショックだったし、悲しかった」と話すノエルは、こう続けた。「……俺がリアムにアドバイスするとしたら、『諦めるな』ってことだな。ただ『諦めるな』だ」。ジョークで煙にまくのではなく、真顔でそう答えたノエル。古いファンも新しいファンも、オアシスが決して落胆させない理由をそこに見た気がした。
Text:妹沢奈美